企業が取り組むESG経営とは、長期にわたって持続的な成長を目指すために必要な3つの要素、「環境(Environment)」「社会(Social)」「企業統治ガバナンス(Governance)」の頭文字を取ったものである。
ESGの3つの要素は、社会全体の持続可能性への貢献において、企業の取り組みを評価する指標の1つにもなっている。
ESG経営の「社会(Social)」の取り組みに関して、育児休業の取得の推進が上げられている。しかし、日本の男性の育休取得率は非常に低い。
日本の育休制度は、世界一とも言われるほど充実した内容であるにもかかわらず、育休取得率が上がらない原因はどこにあるのだろうか。
今回は、日本人男性の育休取得率と取得率が上がらない理由について解説する。
日本人男性の育休取得率は13.97%
日本人男性の育休取得率は、厚生労働省の令和3年度年度雇用均等基本調査によると、13.97%である。
政府は「25年までに男性育休30%」の目標を掲げているが、男性の育休取得率が過去最高となっているとはいえ、まだまだ政府目標にはほど遠い。女性の育休取得率は85.1%のため、男女の差は依然大きな差があるといえる。
諸外国の男性の育休取得率を見ると、北欧諸国では育休取得率が特に高い。ノルウェーの育休取得率は2012年で90%、スウェーデンは2013年で88.3%と、大きく日本を上回っている。
参考:労働政策研究・研修機構
北欧諸国では、およそ10年前から男性の9割が育休を取得しており、子どもが生まれると夫婦で育休を取得することが当たり前となっている。
日本の育休制度は世界一
日本の育休制度は、諸外国にはないほど優れている。例えば、期間は子どもが1歳になるまで取得可能で、育児休業を取得してから180日までは育児休業給付金として手取り給料の約8割が支給される。
181日以降も、給与の50%が育児休業給付金として支給されるため、基本的には育児休業期間中に無給になることはない。
前述した北欧の育児休業制度と見比べても、日本の育休制度が劣っていることはない。日本では育休が夫婦そろって子どもが1歳まで取得できるが、スウェーデンの場合は夫婦合計で480日と上限が決まっている。
このような背景から、日本の育休制度は日本一と言われることも多い。
日本の男性の育休取得率が低い理由とは?
世界一の育休制度があるにもかかわらず、育休取得率が低い理由はなぜなのだろうか。
厚生労働省「男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集」によると、男性が育休を取得しなかった理由として多いのは、「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」「収入を減らしたくなかったから」などがある。
職場で育児休業を取得できないように圧力をかける、育休を取得することにより上司による、解雇その他不利益な取扱いが示唆されることなどを「パタ二ティハラスメント(パタハラ)」という。
日本の職場ではパタハラが横行しており、育休を取得した社員だけでなくそれを目の当たりにした社員までも、育休取得しにくくなる雰囲気を生み出している。結果、育休取得する社員がいなくなり、育休は取得しないものという負の連鎖が生まれているといえる。
2022年に改正される新たな育児休業制度に期待
2022年4月以降、育児・介護休業法の改正法が順次施行される。法改正の内容は、男性の育児休業取得率向上のための育児休業制度を利用しやすい環境整備や、女性が出産後も仕事を続けていける環境づくりも挙げられている。
今回の法改正では、従業員数1,000人超の企業に育児休業の取得状況を年1回公表することが義務付けられる。この法改正により、パタハラが減少し育休取得率が向上する効果が期待される。
政府が掲げている「2025年までに男性の育休取得率30%」を達成するためには、男性も育児するという社会の意識が大切になる。ESG経営を進めるにあたり、育児休業の取得の推進は外せない課題となる。
まずは、世界一ともいわれる日本の育休制度を使えるように、育児は夫婦でするものという意識を社会が持つことが重要である。
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